五・七・五に、思いを込めて—立教池袋高等学校文芸部 俳句甲子園出場—

立教大学文学部文学科教授 水谷 隆之先生 × 井上 昂星さん × 笹川 佳那人さん

2019/12/04

OVERVIEW

2019年8月、愛媛県松山市で開催された第22回俳句甲子園(全国高等学校俳句選手権大会)に、立教池袋高等学校文芸部からA・B2チームが参加。同部の出場は3年連続6回目となります。今回は、近世文学や俳諧を専門とする立教大学文学部の水谷隆之先生と、俳句甲子園に挑んだ二人の生徒が語り合いました。

芽生えた俳句への熱意

(左)立教池袋高等学校 3年生 文芸部 井上 昂星さん、(中)立教大学文学部文学科 教授 水谷 隆之先生、(右)立教池袋高等学校 3年生 文芸部 笹川 佳那人さん

水谷    二人はどのようなきっかけで俳句を始めたのですか?

井上    中学では山岳スキー部でしたが、高校1年では部活動をしていなかったんです。2年になって「高校時代に熱中できることを見つけたい」と焦り始めた頃に、友人に誘われて文芸部に入り、そこから俳句を始めました。

笹川    僕も同じような気持ちを抱いていて、井上くんから誘われて同時期に入部しました。ちょうど俳句甲子園に向けて準備を進めているタイミングで、最初は「じゃあつくってみるか」くらいの感覚でした。

水谷    そこから約1年で俳句甲子園に出場を果たしたのはすごいですね。

井上    18年は入部直後に地方大会に参加し、僕と笹川くんのチームは決勝戦で負けてしまいました。俳句甲子園は5人1組の団体戦で、2チームが1句ずつ出し合い、お互いの句についてディベートを行った後に審査員の判定で勝敗が決まります。敗因は、助詞「の」の使い方を相手チームに突かれたこと。とても悔しい一戦で、一字一句の大切さを痛感しました。その後は多くの句を詠んで文法も勉強し、徹底的にトレーニングを積んできました。

笹川    部では自分の句を持ち寄って鑑賞し合う「句会」を週に数回行い、「季語の使い方は正しいか」「この助詞を用いたのはなぜか」といった意見を交わしながら一つの句に対する考えを深めていきます。何度も繰り返すうちに他の人の句を味わい、批評する力が身に付き、19年の俳句甲子園に出場できたのだと思います。

水谷    負けたことで足りないものが顕在化し、熱意と努力につながったのですね。部としても3年連続6回目という成績は素晴らしいと思います。

事前に出される兼題に沿って詠んだ句について、対戦校とディベートを行う

笹川    先輩からはいつも「まずは自分たちが楽しむことが大切だ」と言われていて、強豪校と評価されますが部員がのびのびと自由に句を詠んでいる雰囲気があります。試合ではディベートが白熱するのが特徴で、最初に「立教劇場へようこそ!」とあいさつするのが恒例になっていて。一人一人の個性を武器に、身ぶり手ぶりを交えながら審査員や観客を巻き込むことを心掛けています。

井上    生徒が自主的に活動している点も特色で、自分たちからOBの方に意見を聞くこともあります。各自が主体的に動き、部員同士のつながりが深い環境だからこそ生まれる強さがあると自負しています。

水谷    俳句は、使われている言葉のさらに奥、言葉が省かれて生まれた間にこそ面白さや価値が詰まっている文芸。皆さんはその魅力を表現するために、部員同士で高め合いながらさまざまな工夫を凝らしていることが伝わってきました。俳句甲子園は、まさに俳句の本質を捉えた一つの競技として成立しているのですね。

奥深い俳諧・俳句の世界

俳句甲子園での様子。

井上    先生は、なぜ近世文学や俳諧を研究されているのですか?
※俳諧連歌。江戸時代に栄えた韻文の一種で、俳句の源流

水谷    きっかけは、高校生の頃に読んだ井原西鶴の『好色一代男』にあります。浮世草子の代表作で、新たな町人文化を形成したエポック的な作品といわれますが、当時の私には良さが全く分からなかった。その後大学で研究を進めるうちに、そもそも俳諧師である西鶴が書いた作品を理解するには、当時の俳諧をきちんと理解する必要があると思い至ったのです。俳諧研究を進めながら『好色一代男』を読み直すと新しい発見が多々あり、面白いですね。二人は、俳句の魅力をどう捉えていますか?

笹川    言葉を省き、限られた字数の中で表現するという点に面白さを感じます。また、人はそれぞれ感動を覚えるものが異なるので、他の人の俳句からさまざまな世界観を知ることができるのも楽しいです。

井上    確かに、つくり手の個性が投影されて句が生きてくるところが魅力だと思います。

水谷    今は「伝統的な言語文化」という項目が学習指導要領に盛り込まれ、国語教育で俳句を扱う場面が増えています。大学の授業でも俳句の創作を課題に出すことがありますが、最近は興味を引く句を詠む学生が多いように感じます。SNSなどで、自分の思いを短い言葉で伝えることに慣れているのかもしれませんね。二人の今後の目標を聞かせてください。

井上    現在、文芸部では短歌甲子園を目指したり、漢詩に興味を持つ部員がいたりと活動の幅を広げているため、俳句以外の分野にも力を入れていきたいです。僕は活動を通して俳句が大好きになったので、文芸部引退後も続けるつもりです。句会や俳句甲子園で身に付いたディベート力も、今後に生かしていきたいです。
笹川    部活は多様性が大切だと考えているため、後輩たちがさまざまな分野に挑戦することを期待しています。俳句甲子園などの試合では評価されることが目的でしたが、本来俳句は、自分の感動を17音に込める文芸だと思います。今後は初心に立ち返り、自由な発想で俳句を詠んでいきたいです。

水谷    昔の人の句を読むと、新しい視点が得られたり、自分との共通点が見つかったりするので、ぜひ触れてみてほしいと思います。これからも、文芸部の皆さんの活動に期待しています。
※本記事は、『立教学院NEWS』Vol.33(2019年11月)の記事を再構成したものです。記事の内容およびプロフィールは、取材当時(2019年8月26日)のものです。

プロフィール

PROFILE

水谷 隆之

みずたに たかゆき / 立教大学文学部文学科日本文学専修教授。博士(文学)。浮世草子や俳諧を中心に、近世文学全般を広く研究対象としているほか、近世出版メディアなど周辺諸ジャンルも研究対象。