学校法人 立教学院

英語科教員研修会
第一回「英語教育における一貫と連携」

1.はじめに

戦略構想という名前を使わなくてならないほど、各教科とも大改革を迫られた時代になってきた。英語教育においても、最短で5年後には小学校の学習指導要領が改定され英語が正課として入ってくる可能性があるが、小中、中高の一貫制が立ち上がらない限り、環境が整わない中での取り込みは危険である。もし、小中がつながらない中で法律改正がなされた時の懸念は、現在の「大高中小」という逆三角形構造英語教育の流れのままではなく、小学校をベースにして発展していく「小中高大」という正三角形構造英語教育を目指すべきである。しかし、現在公立では小中がつながっているところはなく、小学校からはじまる正三角形構造英語教育を公立に先立って行えるのは、そのような環境を持っている私学である。青山学院では10年前からこの課題に取り組んできたが、英米文学科(350名)に入ってくる学生の30%~37%が海外生活体験を持っている。海外生活体験が5年以上となると明らかに日本の中で生きてきた学生と違い、特にメタ認知ストラテジー(自分で目標を掲げる、それを遂行する、得られた成果を評価しまた自分で新しい目標を掲げる、いわゆる「PLAN DO SEE」に一番使う学習能力のこと)を目的に応じて多様化する、無意識のうちにたくさん使うということがわかってきた。自己教育力の育成のためには、メタ認知ストラテジーを核にした授業運営が大事ではないかと考える。

2.英語教育を取り巻く周辺情報

2-1.独立行政法人メディア教育開発センター研究よりの示唆

中学2年の壁:3年前(週6日体制時)のデータだが、全私立のボトム30%ぐらいが低学力化に入っている。これは、授業がなりたたないだけではなく、人文、社会、自然系どこの学部でも3年生になれない、短大の場合は就職に出せず、本人も働く自信がないという状況である。調査によると、低学力で困っている 20歳の学生は中学2年の夏休み前に、ある教科で学習曲線がピークに達している。この傾向が強いのは英数国の3教科であり、国語は小学5年生から、それが算数、英語に波及しピークは中学2年となる。国立、公立等の環境に関係なく中学2年は壁であり、中学2年の夏休みを何とか乗り越えれば自分でなんとかできるが、それ以降低学力の学生はケアされていない。私が「4-4-4制」を提案する最大の理由はここにある。

2-2.京都市御所南小学校(学力日本一 ベネッセの調査 )の実践よりの示唆

ベネッセの調査で 2003年前半期の学力日本一となった京都市御所南小学校は、低学力化から脱却した数少ない小学校である。そこではどのような教育をおこなっているのか。調査では、国語の書く力、算数の応用や表現の分野で高い数字を出しているが、基礎学習の重視と推論と発見を大事にする「考える授業」の推進をおこなっており、縦割りではない教師集団(5人でチーム)によるプラットホームの構築を実施している。ここでは、教室を仕切る壁をはずし教員同士の垣根を取り除いた。また、朝の授業前に読み書き計算の力をつけさせるため、毎日宿題を提出させ、基礎ティーチャーがすぐに採点しその日のうちに生徒を指導する。そして、つまずきを発見すると担任教師に連絡するため、授業をどのように改善したらいいのかわかるようになった。これにより授業内容は確実にレベルアップしてきた。また、2週間に1度父母が自由に学校に入って話し合いをもち、授業と家庭学習の連携・相補性、家庭と学校がうまい関係にあってお互いに機能しあう体制ができている。ここ数年土曜日が休みとなり授業日数が減っている。公立中学で最大できる授業時間が年間105時間。英語の授業が中1で1.7時間、中2で1.8時間が公立の実態である。週2回の授業と授業の間に生徒がどのように英語に立ち向かっていくのか、立ち向かってくれればいいのだが、なかには授業でしか勉強しない生徒も全国的に増えている。学習内容の30%が削減されたが、これでは教科書が1年間では終わらず、授業と授業の間に意識付けがなされないため、授業が成り立たない事態となっている。この中に小学校での英語が入ってくるとどのような状況になるのか。ただつなげるだけではなく、発達過程、家庭環境、学習者の意識等を巻き込みながら連携をもたらなくては難しい。御所南小学校はそのいいモデルとなるのではないか。

2-3.フィンランド教育改革(OECD学力世界一)よりの示唆

フィンランドでは、一斉授業型が破綻しプロジェクトワークへと変換した。そして、自主教材の推進で、すべての教材は担当教師が作成することになり、理念、評価力全部持ち合わせてないと現場の先生は働けない状況になった。また、図書館が充分に機能しており、情報検索システムが学校の中にも地域の中にもあることが大きな成功の要因ともなっている。一貫という時にはたてのつながりだけではなく横の媒体での連携ももつ必要がある。

2-4.香川県高松市立第一高等学校(SELHi第一期指定校)の実践

高松市立第一高等学校は、西日本有数の進学校(1学年400名)で、常時260名は京都大学を頂点とする国公大学に現役で入っている。最近、高松には外資系企業が入り、地元の人を雇用しようとしているが、企業で通用する英語力がないとの指摘が企業からなされている。また、校長の話では、「進学実績だけでやっていける高校教育の評価は10年以内に終わる。それだけでは持たない。もっと学力が生活力に源になるような、勉強することで人間的にも豊かになれるような学園にしないと、進学実績だけでは、少子化が進む中では難しい。先を見通した上での理念が必要である。」とのことであった。

高松市立第一高等学校の旗印は2つあり、一つは、英語の授業は英語で教えるということである。これまでは英語の授業を日本語で教えていたが、これでは、受験には通用するが、生徒は国際感覚を身につける、国際的な英語を使えるようになりたいとかの気持ちにはなれないと考えた。当初は進学実績が下がってしまう等の反対があったが、現在は大半を英語で授業をおこなっている。もう一つは、英語だけでなく、他教科の理科(1年)、数学(1年から3年)も英語で教えるようになった。フィリピンから留学してきている高校教師が、週2 回、ボランティアワークとして英語を媒体として化学を教えている。授業準備は英語の先生だけでなく理科の先生が数名でチームを組み、2週間前には検定教科書にそったワードリストを作り生徒に渡したが、3ヶ月後には中身がずいぶんわかるようになってきた。現在はオーストラリアの生物を専門とする人が2年生を教えている。数学は当初は日本人数学教育の専門家が英語で、四則計算からおこなってきたが、1年たった成果として英語でプレゼンテーションをおこなった。今は米国の数学教育の専門家がおこなっている。英語の伸びは著しく、当初は懸念していた理科、数学も伸びている。学習意欲、意識が変わり、同時に学習方法が変わった。また、自分で考え、自分でやらなくてはならないため、それまで伸びていなかった層も伸びてきた。

3.一貫制英語教育を推進するための検討材料

3-1.4年生と5年生、発達上の違い

英語に限らず、小学4年生までの意識、遊び方、勉強の仕方、態度は5年生とではあきらかに異なり、4年生までの教え方を5年生に繰り返してもうまくいかない。4年生は一斉の授業についてくるが、5年生になるとそれでは満足できず、失敗してもいいから自分たちでやりたい、自分たちでやることの意味を知りたがる等大きく変化する。英語教育ではこの段階で音声の授業だけでは難しく、文字の使用、文法が必要となる。これらを整理すると「4-4-4制」の考え方が自然に出てくる。韓国の例:韓国の小学校では英語は3年生から学ぶ。3年生までは英語に興味を持って進むが、5年生になると単純な表現から一歩進むため、興味を持つのがむずかしくなり、興味を持ち続ける子とそうでない子の差が出てくる。韓国では当初小学校では英語を週2時間おこなってきたが、現在は週1時間である。進学塾だけでなくあらゆる英語を特化した塾ができてきており、富裕層であればあるほどみんな塾へ行く。その結果、本来学校教育がやらなくてはならないことも外がやってくれる。そのため、学校の機能・役割が低下し、週1時間に変更したのではないかと思われる。青山学院初等部の例:青山学院の英語授業(週2時間)の中で4年生と5年生の違いがはっきりとでた。授業の中で世界の子ども達の写真を見せ授業を展開したが、その時に、4年生はひとつのものに興味を示したが、5年生は多数の国を比較したり、多くのものに興味を示すようになってきた。5年生となると世界観が少しずつでてくるようだ。

3-2.日本語(母語)の語彙数

統計上13歳の日本人の子どもは日本語の語彙を1万3000語持っている。それが18歳になると5万語となり、先進国ではどこも同じような数である。富山県の公立中学で小学校1 年から6年までの検定教科書(地理以外)に出てくるカタカナ語(外来語数)を調べたが1144語であった。10年前の調査では1229語であったが、内容削減が30%あったので外来語の占める比率は増えている。この中に英語を語源とするものが954語あり、通常の英語の使い方と同様のもの(第一語義)は 85%以上であった。もともと持っている日本語の語彙等を英語教育に生かせると考えている。

3-3.「中学2年の壁」

小学4年生、5年生だけではなく、中学2年生までの教える内容と中3以降に教える内容を教え方を含めてもう一度見直す必要がある。

3-4.BICS→CALPへの比重移動(JACET国際比較調査結果からの示唆)

BICS(日常会話などの具体的で抽象度の低い伝達内容に必要な能力で、Listening Speakingの占めるウエイトが大きい。)CALP(抽象度の高い思考が要求される、認知活動と関連した能力。Reading  Writingの占めるウエイトが大きい。)3カ国(日、韓国、中国)約300人の大学生に同じ質問と同時にTOEFLを実施した。質問事項(1)は「あなたが個人的に伸ばしたいと望んでいる能力を4機能の順番で教えてください。」であり、その結果、どの国も90%の学生が、SPEAKINNG LISTENING  READING WRITINGの順であった。また質問事項(2)は「あなたが大学を卒業するまでに大学に保証してもらいたい英語力の技能を順番に答えて欲しい。」であったが、その結果、(1)(2)両方同じ回答の学生のTOFELの点数は低かった。逆に、TOFELが高得点であった学生は、READING「自分が大学を卒業するまでに日常に読んでいる新聞等をより深く読めるようにして欲しい。」WRITING「自分の考えを持って相当長い英語を書けるようにして欲しい。」と答えている。BICSからCALPへの移行ができている学生ほど残りの学生生活をCALPを重点的に教えて欲しいとなり、BICSが育ってない学生ほどSPEAKINNG LISTENINGを高めて欲しいという違いとなった。一貫制英語教育の中ではまずBICSの基礎を築き、BICSをベースとしながらCALPの基礎を築き、そしてCALPへ比重移動をしなくてはならないだろう。

3-5.目標(Goals)と到達目標(Objectives)の区別

目標と到達目標をきちんと設定する必要がある。成果主義の時代となっており、成果が問われる時代となっているが、到達目標(Objectives)「何が出来て、どこまで」だけでなく、目標(Goals)についても考えていかなくてはならず、目標を掲げておいて、英語教育ではその目標に向かって何をどのようにしたらいいのかを考えていかなくてはならない。本来、学習指導要領は目的ではなく目標を掲げるもので、ゴールは下げないことが大事である。

3-6.評価:教師による評価

現在、公立の中高の英語教員は6万人いるが、現職教員の英語力を上げていくことが日本中で広がっており、去年から集中訓練が始まっている。戦略構想の中では、現職教員であるならばTOEIC は730、TOFELは550、英検準1級は欲しいとなっている。地方自治体で7月に教員採用試験をおこなうが、例えば埼玉県ではTOEIC890以上出していれば1次試験免除するなど、相当高いレベルでないと採用しないということをアピールしている。子ども達の評価をどうするか、現在は教師による教育評価が中心であるが、国や地方自治体では、学習を進捗するのは自分であり、何とか個人評価を構造化できないか、自己教育力が育っていないとだめであると考えている。現在は関心、意欲、態度等の関連で能力はどの程度かという評価をおこなっているが、関心、態度を数値化すると、時間はかかるが能力の幅は広がってくる。そのためには、先生が全部評価する体制では育たない。小学校から自分の学習の進捗を自分でコントロールするような、勉強したのは自分たちであり、自分たちががんばったからできた、それまでには計画、努力、感動があってここまで来たという経験的なものが後押ししなくては難しい。小学校4年の終わりでは「教員評価80% 個人評価20%」、中2の終わりでは「教員評価70% 個人評価15% 生徒間評価15%」、高3では「教員評価が60%、個人評価20% 生徒間評価20%」が望ましいのではないか。学習は自分でやるんだという意識付けを初期からおこなうことが必要である。

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